働き方改革で会話が消える?

2018.03.02(金)日本経済新聞・夕刊

働き方改革ばやりの昨今。多くの会社で「早く帰れ」の大号令が響いている。
過重労働につながる長時間労働は根絶すべきだが、
目先の仕事をこなすのに躍起となるばかりに、同僚らとの会話が減ったという声もある。
何気ない雑談にも仕事に有益なヒントが隠れている。
効率最優先の職場は生産性を逆に下げるリスクもある。


仕事で何を実現するか。

お金を貯めること、社会的地位や名声を得ること。それらを否定はしない。

人として生まれて来て、一番幸せを感じるのは、
他の人とわかり合えたとき、触れ合えたときだと思う。

仕事はそうした幸せを感じることのできる、絶好の機会だ。

自らが必要とされている場所が仕事であるとき、
その場所で自分が持っている能力を発揮することで
幸せを感じさせてもらえるのであれば、
この上ない喜びといえないだろうか。


ただ、他の人とわかり合えた、と実感できるようになるには、
私の経験上からいえば、年単位の時間が必要となる。

誰しも、若く未熟なとき、「天狗」になりがち。

でも、いつか気づくときが来る。

「自分は周囲の方に支えられている」ということを。


先日閉幕した、平昌オリンピック。
その中継を見ていると、
10代のメダリストがインタビューに答えて話していた。

「私がここまで来られたのは周囲の皆さんのおかげです」


私がそのステージに辿りついた(と思いこんでいるだけ)のは、
30歳を過ぎてからようやく、といったところだが、
彼ら彼女らはとうに踏破していた。

厳しい練習を絶え、強い精神力を育むなかで、
きっと自ら悟り、そして、先のことばは本心から素直に発せられたものだと思う。


しかしながら、皆がそうではない。
高校生でそこまで至るのは相当珍しい。
彼ら彼女らは特別な人と見るほうがよい。


そうではなければ、足元ではどうするか。

上司や先輩といった働く仲間が愛情をもって後輩に接し、

気づかせるように一定程度仕立て上げる必要がある。

そして、後輩はそのまた後輩に、と職場で順々に継承すべきことだろう。

産業を取り巻く環境は劇的に変化し、

技術革新が圧倒的なスピードで進むなか、

「サービス業」に従事する人間に求められる能力は、高度化している。


社員間でのコミュニケーションレスによって起こってしまうような

仕事で幸せを感じることができにくい不幸な環境では、

お客様とのコミュニケーション能力の発揮が求められる業界において

理想的な人財を育成するのは困難だ。


「人財育成」が急務とされる産業において、
効率最優先ばかりが先行し、
働く仲間同士がわかり合える「強い」組織をつくりあげることを

阻害してしまうことになってしまうなら…。
それは、産業の先細りを加速させることになりかねない。


長時間労働は否定する。
しかし、その一方でやるべきことを、どうやるかいつやるかについて、
思考放棄してはいけない。
会社がやらない(やれない)なら、させるように労働組合が持っていけばよい。
というか、こういう観点で存在感を示せないと、組合員に愛想をつかされないだろうか。


団結・連帯ということばを春闘のシュプレヒコールにのみ活用するのではなく、
今こそ、その言葉に魂を注入すべきなのではないだろうか。



2018.03.02 日本経済新聞・夕刊より一部引用
2018.06.20 SQUARE誌 半井小絵さんインタビューより一部引用

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