半井小絵さん インタビュー後編

旅・仕事・大人の女性像とは…?
各界で活躍する大人女子にお話を伺うインタビュー企画第1弾。
気象予報士の半井小絵さんの登場。後編です。



――防災の活動にも取り組まれています。何か、課題感は?

目の前の現象だけで判断せず、情報を有効に活用していただきたいです。 

 

 今年2月に北陸で大雪となり、国道で2日間にわたって車両が立ち往生する事態がありました。私たち気象予報士は、予想降雪量から判断すれば、いつ災害が起こってもおかしくないと思います。ただ、なかなか一般の方には伝わりません。大雪といえば、その前の1月、東京でも4年ぶりに20センチ超を記録しました。あの時は、数日前から気象庁や民間気象会社は大雪を予想していましたし、あまり記者会見をすることがない国交省が、前日に「明日は交通機関に影響が出る恐れ」と情報発信していました。気象や防災に関わっている人間からすると、これは只事ではないなと感じるわけです。ただ、当日に皆さんがこれは危ないかもしれないと思ったのはどのタイミングでしたか? 恐らく雪がしっかり積り始めた夕方頃なんだと思います。当日の朝、東京23区で10センチの積雪予報。この時点で警報レベルです。昼頃にはさらに積雪予報が増えました。ただ、積雪が10センチと言われて、皆さんがどうイメージができるかですよね。4年前の大雪を経験していた方なら、警戒感は上がっていそうなものですが…。4年前のその時、私は移動中のバスがスタックしてしまい、乗客みんなでバスを後ろから必死に押したという、何ともツラい思い出があるので、今回はなおさら警戒しましたね(苦笑)。


 アメリカでは、気象災害が見込まれる場合、地元市長が「今日は交通機関を止めて経済活動を中止する」と宣言することがあります。しかし、日本では無理でしょう。今は、避難情報を出せるのは市町村単位ですが、そこでの判断について課題があります。何をきっかけとして情報を出すのかという点です。私は防災に関わっている立場から防災情報について検討することがありますが、自治体の防災担当者が気象台や民間気象会社などからたくさん入る情報を整理して情報を出す判断力と知識がポイントになっています。


 情報の発信側の役割も大事ですが、一方では受け取る側の理解も重要です。テレビのニュースだけが情報源という時代ではありませんよね。気象庁や気象会社のサイトやアプリを日頃から見ておいてくださればと思います。いざ、何かあってもどこを見たらいいかわからないようじゃ困ります。あとは、情報の「空振り」の可能性は理解いただきたいです。空振りを許さない、ではなく何も被害が無くてよかったなという情報の受け取り方をしていただきたいと思います。




――災害には風評被害も付きまといます。ご所見は?

適切なタイミングに正しい情報を発信することが何より大事だと思います。


 

 関東近郊でいえば、今年1月、草津白根山で噴火がありました。それ以前には、箱根山の大涌谷でも火山活動が活発になる事態が発生しました。どちらも、観光産業の方にとっては、大変なことだったと思います。報道を見ていると、噴気が大きく上がっている様子や巨大な噴石が舞い落ちているところなど、衝撃をもって受け止められる映像が多く映されていました。まるで、周辺一帯がそのような状態と思わせるかのように。ただ、私の周りの防災関係者が現地へ見に行くと、決してそういうわけではないと言います。でも、一般の方は怖いから、旅行をキャンセルしようかなとなります。


 メディアの伝え方にも課題はあると思います。「このように伝えてください」と地元行政や観光業側から言いにくいところもありますよね。今は、マスメディアに限らず個々が情報発信できる時代です。地元だからこそ、専門家の知識を借りて、どのエリアがどういう状況かという具体的な情報を発信するのが何より有効ではないでしょうか。観光に関して素人が言うのは申し訳ない話なのですが、地元の観光業の方や申し込みを受ける旅行会社の方も大変だとは思いますが、お客様からの取り消し対応を進めるときに、そうした的確な情報をお客様に一言伝えられる機会を持つことができれば、次につながるのではと思います。


 一方、町の判断で気象庁噴火警戒レベル3を「レベル1の変化はありません」と下げて安全性をアピールしていましたが、あれは間違いです。気持ちが全く理解できないわけではありませんが、事実を歪めることはあってはいけない。私は火山の専門家ではありませんが、あの当時、活動が活発な状況で、いつ噴火するのかはわからない状態でした。火山性地震や微動が減少したタイミングがあっても、いつ収まるということはわかりません。大前提として、人は自然を超えられません。安全だから大丈夫ということはないということは理解すべきです。




――今日はありがとうございました。結びに、大人の女性とは?

ズバリ、強い人です。


 

 ちなみに、私はまだまだですね。年だけは大人ですけど(笑)。少し前の話になりますが、平昌オリンピックの選手の皆さんがされていたコメントは、私よりもずっと大人だなと感じました。世界に出て、強い精神力で乗り越えてきた人というのは、年齢とは違う次元で大人ですよね。そのようなところから考えると、精神的に強い人でないと大人ではないのかもしれません。10代の選手が、「私がここまで来られたのは周囲の皆さんのおかげ」と言うわけです。これって、先にお話ししていた周囲への感謝についても気づけているわけですよね。そういう強い人というのは、周りにもやさしくいられるのでしょう。宮本武蔵のように、「強い人はやさしい」わけです。そのようにいられると、人に気配りもできるし余裕もできる。私は精進して、もっと強い人になりたいものです。


 仕事は、決して楽なものばかりではありません。もしかして辛い方が多いかもしれません。でも、嫌なことを抱え続けていても、全部自分に返ってくると思います。できるだけ頭の中から排除しないと、嫌なことに自分がやられ続けていることになりますよね。感動したことや嬉しかったことに目を向けて、自分を大切にしましょう。心が体を痛めるのってかわいそうですから。私はそう思いながら大人の女性に近づけるよう日々生きていきたいと思います。




SQUARE VOL.190から引用

サービス連合情報総研

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