国立公園に外国人1000万人は可能か

2018.03.12(月)時事通信

環境省は12日、全国に34カ所ある国立公園を訪れた2017年の訪日外国人は推計で前年比10.0%増の600万1000人(暫定値)だったと発表した。
2年連続増加で、公園別では富士箱根伊豆(静岡県など)が258万人で最も多かった。
訪日外国人の日本出国時に行ったアンケート調査結果を基に利用者数を推計した。
公園別で富士箱根伊豆の後には、阿蘇くじゅう(熊本、大分両県)の92万6000人、支笏洞爺(北海道)の90万1000人が続いた。



2016年、政府は「観光先進国」への新たな国づくりにむけて、
「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定。


「国立公園を世界水準のナショナルパークへ」として、
保護すべき区域と観光活用する区域を明確化したうえで、
官民一体となった体験・活用型の空間へと改善することが、改革のひとつに掲げられた。


そして、「国立公園満喫プロジェクト」が設置され、
2020年までに訪日外国人の利用者数を1000万人とする目標が掲げられた。
プロジェクトで選定された、集中して改革をおこなっている8つの国立公園には、
前年比29%増の約149万人が訪れたという。


しかしながら、海外から訪れた人たちは、
自らが訪ねた先を「国立公園」と認知していたのだろうか。
日本人の多くが知床や尾瀬といった程度しか知らないことが想定され、
旅行会社など観光産業従事者でも、34箇所全てを把握しているのは稀有な存在と捉える。
そうした状況の改善がないままに、訪問先が「偶然」国立公園だった、
というのではいくら目標が達成されることがあったとしても、プロジェクトの名が廃れる。



世界遺産、ジオパークなど、地域を認定する制度が複数存在しており、
その中で比べると国立公園の「ブランド力」は乏しい。
認定エリアが結果として「競合」している状況もそれに拍車をかけている。


国立公園には、その地域の「自然保護」のために、
国が指定し管理する役割を明確化するという目的がある。
それならば、その観点を全面に出し、
私たちの子や孫といった後世の人たちにむけて、自然の良さをいかにして守っているのか、
また、海外から訪れる人たちに国としてどれほど環境保全に熱心なのか、
といった認定エリアならではの取り組みをさらに示すべきと考える。
そのことで「競合」を回避し、「ならでは」の良さをアピールできるはずだ。


そのためには、観光客と自然の橋渡し役となる「人」の存在が不可欠だ。
様々な気づきを与えてくれ、歴史や文化を解説してくれる役割が求められる。
国立公園には、ただ美しい景観があればよいのではなく、
気づきを得られ、解説によってその地域を深く理解してもらえてこそ、
その景観の価値が高まる要素は大きいと捉える。


プロジェクトにおいては、オフィシャルパートナーとして、
民間の企業や団体が国立公園の魅力を世界にむけて情報発信している。
昨年の秋までの取り組みを確認すると、
単に景観の良さを紹介するに過ぎない活動に留まっている所が少なくない。
ただ、一部ではガイド育成などの人材育成への取り組みが始まっているようだ。


今般の環境省の調査において、
国立公園全体の半数以上が前年に比べて利用者数増加につながっていない状況もわかった。
私有地が26.0%を占め(2017年8月8日現在)、
「保護」「活用」ともその整備を進めにくい背景はあるかもしれないが、
逆に官民が連携して取り組みがしやすい環境と捉え、
組織横断的かつ一体的な取り組みがなされるかが期待される。



サービス連合情報総研

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