JTB、店舗でAIを活用。効率運営でネットに対抗

2018.03.20(火)毎日新聞

JTBの高橋広行社長(61)は20日までに共同通信のインタビューに応じ、全国約750ある店舗のデジタル化を進める方針を明らかにした。人工知能(AI)を活用した専用端末を導入し、来店客の相談に応じる。ネット専業の旅行会社が存在感を高める中、店舗運営の効率化に乗り出す。
例えば、来店客が入力した年齢・性別などの属性や予算、旅の目的といった情報を店内に置いた専用端末で分析し、最適な旅行プランを提案する。
有人窓口では、オーダーメード商品など付加価値の高いプランを要望する客の相談に重点的に対応する。高橋社長は「従来に比べて少ない人数で店舗を運営できる」と話した。(共同通信配信)



昨年6月、オンライン旅行会社(OTA)の国際会議「WIT2017」が開催された。
その席で、JTBグループのインターネット販売事業を担う「i.JTB」の三島健執行役員は、
シェアを拡大しているグローバルOTAに対する危機感について、
「(JTBグループは)800ものリアル店舗を有しており、今後のオムニチャネル展開を考えると(数字で表せば)50%」と話している。



「WIT」で伝えられた、2015年の「i.JTB」は、国内OTAマーケットシェアが11%。
100%までの全面的な脅威をグローバルOTAに感じていないという感覚を併せて鑑みると、
オムニチャネル戦略の中に「ベクトル」が透けて見え、
「店舗からネット」への流れを中心に据えていると捉えられる。
「O2O(online-to-offline)」の逆ベクトルだ。



O2Oよりもオムニチャネルの方が、顧客の囲い込みに適しているのは自明の理だ。
O2O戦略では、機会を享受した新しい顧客を素早く獲得できる可能性はあるものの、
その後の購入単価アップやリピーター化までは一般的に困難とされる。
無形商品ながら相応の出費を求め、一過性ではなくライフステージに応じた購買行動を継続的に要請し続けるのであれば、O2O一辺倒では大いに課題感が漂う。



それでは、都合よく顧客が接点をリアルからネットへと使い分けてくれるのか。
(ここではeコマース単体での大幅なシェアアップを考慮しない)
共同通信が報じるところの、
「来店客が入力した情報を店内にある専用端末で分析し、最適な旅行プランをAIが提案」
が顧客の期待に応えられるのだろうか。




記事にある「店舗運営の効率化」と聞くと、メガバンクが浮かぶ。
しかしながら、メガバンクにおける「次世代店舗」づくりとは、全くフレームが異なる。
銀行は、web等の非対面チャネルを進化させ、ATM網を充実させることによって、
それまでにも取り組んできた「少人数でいかに捌くか」にフォーカスを当て続けた結果としての来店減少への対応策が議論となっているのであって、前提がまるで違う。
理由は限定されていると言わないが、売り手と買い手の「情報の非対称性」の崩壊に加え、
webとの親和性が高い商品を扱っているが故、旅行会社への来店が「減少してしまった」と見る向きは多いだろう。
「効率化の結果」と「環境変化による成れの果て」としても、言い過ぎではないのかもしれない。



そのとき考えるべきは、コストダウンによる効率化という観点だけではなく、
持続可能な経営・店舗運営に貢献する新しい発想の店舗開発をプランニングすることだ。
必ずしも先進的な取り組みを取り入れたり、他業界や他社の事例や構想を活用することばかりが最適解ではないはずだ。



ITソリューションは道具でしかない。
国が実現を目指す「Society5.0」でも、人が豊かな生活を送るための技術活用を言っており、旅行商品造成にあたっての効率化や高度化にAIを用いることとはあっても、相談や販売の場面での活用を一義的に扱うのには抵抗を感じずにはいられない。


「付加価値の高いプランを要望する客」には有人窓口で対応する、としているが、
その判断を客に任せられるわけなどない。
結果として、「AIに相談する」ために店舗を訪問する積極的な理由が持てず、
価値がある旅行だと自認することを遠慮する人が増え(もしくは訪問する客が集中し)、
「自らが環境を変化させたことの成れの果て」として、さらなる来店減少を招く懸念がある。



JTB田川会長は近著でこう述べている。
「さまざまなテクノロジーをおもちの企業、団体、あるいは国からも、『長年お客様の感情に寄り添い、感動を提供することに粉骨砕身し続けてきた、ツーリズム業界の得意分野の発揮』が、大いに期待されているところです。」
「最適な技術の選択やサービスとの組み合わせが必要だということです。」



個社のインタビューであり、社として決定した施策がリリースされたものではないことは承知している。今後の動向を注視していきたい。




参考文献
田川博己(2018)「観光先進国をめざして -日本のツーリズム産業の果たすべき役割ー」中央経済社.

サービス連合情報総研

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