「EXIT」 ブレグジットと訪日英国人の動向、富裕層へのアプローチ

 プロ野球・清宮幸太郎の一軍「離脱」、Uberの東南アジア「撤退」、そして何より財務省による決裁文書「改ざん・削除」が話題となったひと月だった。今月は、産業に関わる「EXIT」に関わる報道を取り上げたい。

 物に囲まれ何ら不自由のない暮らしに慣れると、既存の価値観からの離脱志向が芽生える。他方、集団なるものは多様化し、小さな集団やそこから外れている個人であっても認知される社会となり、集団への帰属意識は変容し希薄化した。そうした背景も手伝い、「いま」に疑義をもち、画一的な暮らしから脱却を図る価値観が広がっている。そして、「受け身」の態勢から、その反動として好奇心の赴くままに自主的に行動したい、という衝動に駆られた消費者を刺激する商品やサービスがビジネスの世界で提供されて久しい。


■ブレグジットと訪日英国人の動向

英・ブレグジットまであと1年、離脱交渉どこまで進んだ?
(テレビ東京「WBS」3月29日)

 イギリスのEUからの離脱=いわゆるブレグジットまで、ちょうどあと1年となりました。メイ首相はイギリス各地を回り、ブレグジットでイギリス経済はより強くなると訴えています。ただ、EUとのこれまでの交渉では離脱後、1年10ヵ月間の移行期間中もEU予算およそ5兆5,000億円を支払うことに同意したほか、この移行期間中は人の移動の自由も認めるなどかなり妥協を余儀なくされています。また、離脱後の両者の通商協定については、まだ議論がほとんどなされていません。GDPの11%を稼ぎ出すイギリスの金融セクターが、離脱後も円滑にビジネスを続けられるのかは依然として不透明です。



 3月20日に観光庁が発表した「訪日外国人消費動向調査(確報)」によれば、2017年の訪日外国人の旅行消費額は4兆4,162億円(前年比17.8%増)で年間値として過去最高、また、訪日外国人旅行者1人当たりの旅行支出は15万3,921円(前年比1.3%増)。後者を国籍・地域別にみると、中国が最も高く(23万円)、次いでオーストラリア(22万6千円)、そして英国(21万5千円)と続く。そのなかでも、前年と比較すると英国人の支出額は18.5%増とあり、他を圧倒する上昇率となっている。


 一昨年の6月、EUからの離脱を国民投票で決めた英国では、直後ポンド安が進行するも、経済指標数値・総選挙や利上げなど相場を乱高下させる要因はあったなか、年間を通じてはポンド・円相場において円安トレンドとなった。それでも、国民投票以前の5年ほどと比べれば円高ではあるものの、財布の紐は少し緩んだといったところなのだろうか。


 先の調査では、英国人のカネの使い方に特徴があることを読み取れる。宿泊費と飲食費(国籍・地域別ランキングで1位)に多く支出しているのだ。この理由は滞在日数と関係する。英国人の平均泊数は12.2で、全外国人の平均9.1や、近隣アジア諸国の4〜10を上回る。その一方で、英国人の買い物代は、全外国人の半額以下、最も支出額が多い中国人と比べると4分の1以下とある。これらから、英国人は、買い物を主眼とするのではなく、日程にゆとりを持たせた上で観光を楽しんでいることがわかる。


 来年日本で開催されるラグビーW杯は、前回イングランドで開催された。そして今回、アイルランドとスコットランドは日本と同じ組で戦うことが決まっている。翌年の東京2020も含め、メガスポーツイベントを契機とした訪日促進としては絶好のタイミングといえよう。「移行期間」を経た後のモノやサービス、人の移動の自由といった要素や経済の先行きに注目しながらの誘客策に視線を注いでいきたい。



■富裕層へのアプローチ

富裕層、店での接客重要に  (「日経MJ」3月30日)

 「最近はプライベートを大事にするお客様が増えた。店での接客がより重要になっている。」西武池袋本店の森田岳史店長は富裕層の消費マインドを分析する。外商による訪問販売は一種のステータスだったが、家への来訪を拒み店内購入を希望する人が若年層を中心に増えているという。



 富裕層も、百貨店で買い物をする理由が見出しにくくなってきているのだろうか。昨年の全国百貨店売上高(速報値)は、5兆9,532億円と前年から減少した。下支えしているのは高額品の販売が伸びていることによるが、それは訪日客の増加によるものだ。都市部の百貨店はインバウンドの恵みを享受しているが、人口減が続く郊外・地方店は苦戦しており、不採算店舗の閉鎖の報に接する機会が少なくない。


 百貨店の外商サービスを利用している知人がいるが、頻繁に自宅を訪問する外商担当者との付き合いは、実に面倒なのだという。深い人間関係が生じると、付き合いで担当者のことを思って余計なものを購入してしまう。ステータスよりも、高いポイントが付与される店で買い物をすることや、ゆるいつながり程度で収まる馴染みのショップに立ち寄る方が、性に合うということだ。つまりは、用途に合わせて使いたいように選ばせてくれる方がよいのであって、いくら店頭には揃えていないものまで準備するサービスが受けられるとあっても「ウザ」いのである。もちろん、インターネットショッピングに慣れ親しんでいることも大きい。


 固定観念に基づいた顧客への接近は、富裕層に限らず受け入れられる時代ではない。日本旅館であろうとホテルであろうと、「つかず離れず」が最高の接遇とされる世の中になった。顧客との距離を大切にしながら、伝えたい気持ちと先入観をきちんと切り離すべし。人と関わる仕事の難しさを改めて考えさせられた。

サービス連合情報総研

一般社団法人サービス連合情報総研のホームページです。 この組織は、旅行・宿泊・国際航空貨物で働く仲間でつくったシンクタンクです。 2018年3月本格稼働。業界で働いているからこそ、の視座で情報発信します。