サブスクリプションの可能性

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 「あと払い」で旅行に行けるアプリ「TRAVEL Now」のサービスがローンチされたのは今年6月28日。前代未聞のサービスに怪しさや危険性を感じたものの、これまでの常識とは全く異なる思想に興味を覚え、記者発表のライブ配信を食い入るように見入った。運営は「バンク」社。身の回りの不要なものをスマホで撮影すると、現金が即送金されるアプリ「CASH」は大きな話題を呼んだ。お金を今使えない(使いたくない)人が旅行に行く市場を創出する前例のない仕掛けに加え、リリース直後に展開された3万円以下の旅行を全て0円で提供する衝撃的な販売促進策も手伝い、初日にして5時間足らずで約4,500件を超える予約を受注したそうだ。長期で休みが取れずお金が今ないだけで実は欲求があるものの、「旅行離れ」などとステレオタイプな思考でひとまとめにされている若者を中心に圧倒的な支持を集めた。


 消費前に料金を支払うことが当たり前とされる旅行商品。旅行会社に対する相応の信頼がベースにあるから前払いしてもらえているのだが、消費者は任意の会社を限定して永続的に選択するわけではなく、旅行の種類で購入先を使い分けている。出張か観光か、家族旅行かひとり旅か、そして国内か海外へ出かけるのかなど。それぞれの旅行会社はそれに対して、CRM強化策として、期待を上回る満足の提供を通じたリピーター獲得や周辺の潜在顧客への推奨を目論んだり、高額商品を高頻度で購入する顧客に対する航空会社におけるFFPのような施策を展開したりしている。しかしながら、来店の動機付け自体は、流行のVR体験や「旅のプロ」による説明会といった「旅の予習」に留まり、あげく「効率経営」に伴い店舗数は漸減傾向のうえ、入店したものの人出不足のためカウンターの席へ着くまでに長時間待たされるとあっては、OTAへ消費者が「流れる」のは自然ともいえる状況に陥っている。


 オンライン専業との競争が厳しい業界の一例として、音楽・PCのソフトウェアや書籍、アパレルが挙げられる。それらにおいては、今、サブスクリプションモデルを導入し成功を収めている企業が散見される。モノの所有から使用に価値をスライドし、その価値に課金する形態だ。その「聴き放題」や「読み放題」といった価値提供は、飲食業界での「月額制サービス」へと進化している。彼らが月額サービスを導入する目的は、目先の利益ではなくお客様との接点を増やすことであり、感謝や顧客還元の思いから実践しているのだという。こうした「有限期間の使用許可」というスタイルは、旅行業や宿泊業にも応用可能と捉える。もちろん、先行する業態のように月単位のレンジではなく数年の単位が必要だ。例えば海外挙式を計画する女性に対し、「独身最後の夜」にバチェロレッテパーティーを旅へと進化したアメリカ版「女子会」を楽しんでもらい、海外ウエディングのあとは国内での披露パーティーを斡旋し、その後は周年記念旅行や家族への旅行プレゼントと、3年単位でライフステージに沿った「やり放題」の商品を最低限の制限を設定しながらひとまとめに販売する形態は旅行業にとって多分にメリットがあるだろう。顧客は否が応でも来店の機会が高まり、販売員や会社へのロイヤルティが向上する可能性がアップする。そうすれば、その後ファミリー旅行で他社を選択する見込みは排除できるだろう。加えて、旅行会社にとって「多額」のキャッシュが事前に入るのは好都合なはずだ。


 新規顧客の獲得を目指す従来型のビジネスモデルで業績拡大を目指すのはとうに限界が訪れているなか、常識を覆す手法で市場を掘り起こす仕掛けや、「売ること」ではなく「契約を継続してもらう」ことをゴールとする仕組みを参考にしたり、一部を組み合わせてアウトプットしたりするような思考が求められている。産業内における、危機感から来る矢継ぎ早のデザイン思考に基づく施策実現は感心するが、店舗づくりの改変に代表されるハード面だけではなく、真にお客様に寄り添えるサービスを具現化するアプローチは不可欠だろう。イノベーティブなプレイヤーや他業態から学ぶべきことは多い。





TOPIC:A

飲食店にも月額制の波
2018.9.1(土)日本経済新聞夕刊より編集

今や音楽ソフトや電子書籍で「聴き放題」「読み放題」のサブスクリプション(定額制)は常識となった。そんな流れを受けたのか、飲食業界でも様々な業態で「月額制サービス」を打ち出す店が出始めた。
月額制カフェのはしりは、2016年10月に東京・西新宿に開店した「coffee mafia」のようだ。同店運営会社の広報担当は「米国で定着しつつある定額制コーヒースタンド文化を日本でも広めたいと、社長がクラウドファンディングで立ち上げた」と説明する。月額サービスは3種類。コーヒーMサイズが来店ごとに1杯無料となる2000円会員、同じくLサイズが1杯無料の3000円会員が基本だ。「会員は平均して月20回ほど来店している。利用頻度が上がるほど店には損だが、月額サービスの目的は目先の利益ではなくお客様との接点を増やすこと。」
そして、より意外性があるラーメン店。首都圏を中心に16店舗を構える「野郎ラーメン」では17年11月から月額制の「1日一杯野郎ラーメン生活」をスタート。月額8600円の定額会員になると3種類のラーメンのどれかを1日1杯食べることができる。看板商品で780円の「豚骨野郎」なら12杯で元が取れる計算だ。週2~3回来店する客がそれなりにいることからサービス開始に踏み切り、社内の予想を上回る会員が集まった。「顧客に向けた感謝と顧客還元の思いから始めた」とPR担当。
いずれも看板商品で勝負し、ファンを増やしている。従来型の「安かろう…」と思われることもあった食べ放題との違いなのかもしれない。


TOPIC:B

映画館復活へ定額制の光明
2018.9.6(木)日経産業新聞より編集

ネットフリックスなど動画配信サービスの台頭に苦しむ映画館チェーンが定額制モデルで再起を図っている。米大手AMCが6月に始めた定額サービスは、想定を上回るペースで会員数が増加している。定額サービスでお得感を打ち出し、いかに劇場ならではの体験を提供できるかが映画館復活のカギを握る。

サービス連合情報総研

一般社団法人サービス連合情報総研のホームページです。 この組織は、旅行・宿泊・国際航空貨物で働く仲間でつくったシンクタンクです。 2018年3月本格稼働。業界で働いているからこそ、の視座で情報発信します。