2023年7月、中古車販売大手ビッグモーターによる保険金の不正請求が明るみになった。その後も店舗前の街路樹の器物損壊や従業員へのパワハラ行為など不法行為が次々と発覚し、大きな問題となっている。監督官庁の聞き取りに対し、従業員は虚偽の回答をしていたことまでも明らかになり、経営者だけでなく従業員もコンプライアンスの意識が欠如していたことがうかがえる。これによりビッグモーターは監督官庁からの行政処分や保険会社との代理店契約の打ち切りなどを受け、事業存続の危機に瀕している。これまでビッグモーターが犯した行為の重大さを鑑みれば、現在同社が置かれている状況は自業自得と言ってよいだろう。今やコンプライス違反は企業の存続をも左右すると言っても過言ではない。
観光産業に目を向けると、2013年に全国の有名ホテルにおいて食品表示偽装が相次いで発覚した。この問題は食品の産地や名称を偽って表示し、消費者に誤認を与えるものだった。発覚当初、各ホテルは食品に関する従業員のコンプライアンスに関する知識や理解の不足が原因と釈明していた。しかし、のちに虚偽表示を認識した上の行為だったことを認めた。また、2023年には大手旅行会社の新型コロナ関連受託事業における過大請求事件が発生した。この事件は、旅行会社が自治体と契約したスタッフよりも少ない人員で再委託していたにも関わらず、自治体には正規の人員の人件費を請求していた。この要因は企業が新たな事業における知識と経験が不足しているにもかかわらず、利益を最優先したことで発生したものとされている。近年では企業規模に関わらずコンプライアンスは経営の土台となっており、経営方針の中心になっている。それにも関わらずコンプライアンス違反に起因する事件が後を絶たない原因はどこにあるのだろうか。
真の要因は利益とコンプライアンスを天秤にかけたときに、利益を優先したためだと思われる。企業経営の足もとにおいてもサービス残業はそのひとつの例だと考えることができる。日本ではサービス残業が常態化しているまま、それを放置している企業が存在する。企業は声高にコンプライアンス経営を謳っているにも関わらず、サービス残業が発生するということは従業員の労務管理という身近なコンプライアンスをも軽んじていることになる。コンプライアンスの対象を広義に捉えると就業規則も含まれる。サービス残業は管理監督者の労務管理意識の欠如や労働者の忖度によって発生している。本来必要な対価が支払われるべき労働であるにも関わらず、企業はこの状態を黙認し、時間外労働手当の支払いを免れているということになる。企業経営は適正な利益を上げることを目的としているため、利益を追求することを否定しているわけではない。大切なことは、企業が適正な利益を確保しつつ、コンプライアンスとの両立を徹底することだ。
企業がコンプライアンス経営を徹底するには経営者だけでなく、従業員一人ひとりが判断に迷った際に、常にコンプライアンスを優先するという意識を身に付けさせることが重要だ。そのためには経営者が従業員に対して、強いメッセージを発することや社内研修の実施のみでは十分ではない。また、業界団体や産業別労働組合はサービス残業撲滅や食品表示適正化に取り組んでいるものの、定番化した啓発活動に終始していることが多い。今や企業経営に対して、あらゆるステークホルダーから監視の目がある。それと同等に労働組合の企業経営に対する監視も必要だ。労働組合は従業員の声をもとに経営陣と協議するだけでなく、日々の活動において現場の実態を把握し、コンプライアンス違反の芽を摘む取り組みが必要だ。経営に対して、常に社会とともに労働者の目がある緊張感を持つことがコンプライアンス経営には必要であり、そのために労働組合は今以上に機能を高めていくことが求められる。
2023年10月18日 日経電子版
ビッグモーター、検査で従業員がウソ 国が厳格処分案
中古車販売大手ビッグモーター(東京)の保険金不正請求を巡り、国土交通省は13日、道路運送車両法に基づき、全国34工場に処分を科す案を公表した。不正車検や検査時の虚偽説明があった12工場は民間車検場の指定を取り消す。処分が確定すれば経営にさらなる打撃となる。(中略)国交省幹部は処分案の公表にあたって同社の企業風土を批判した。
(中略)同省によると、不当な点検や整備による費用の過剰請求(34工場)、速度計の検査を省略するなどの不正車検(16工場)があった。10工場では立ち入り検査の際、従業員が同省職員に対し「不正はしていない」との趣旨の嘘をついていた。
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