男性の育休取得に求められる企業風土改革

 2022年10月、改正育児・介護休業法が施行され、産後パパ育休(出生時育児休業)が導入された。これまでの制度においても男性の育児休業は取得可能だったが、国は男性の更なる育児休業取得を目指し、新たな制度を導入した。この制度は産後8週間以内に4週間(28日)まで取得でき、従来の育児休業とは別に取得可能だ。
 厚生労働省の「令和4年度雇用均等基本調査」によると男性の育児休業取得率は17.13%となった。男性の育児休業取得率は平成24年度の1.83%から10年連続で上昇しており、男性が育児休業を取得することが世論に根付き始めた。職場においては、男性の育児休業は積極的に取得すべきだと考える従業員が年々増えてきており、今後もこうした考え方は浸透していくだろう。また、ダイバーシティ経営を謳っている企業では必ずといってよいほど取り組み項目に男性の育児休業取得が掲げられている。企業は男性の育児休業取得を推進するため、無給である産後パパ育休の有給化や育児休業取得者に対するインセンティブ付与などさまざまな取り組みを実施している。その背景には、従業員数1,000名超の企業は男性の育児休業取得率の公表が義務付けられた影響が大きい。これにより、企業は男性の育児休業取得の推進にむけて重い腰を上げ、大きな一歩を踏み出したと言える。
 出産は「全治2ヶ月の事故」に例えられ、産後の母体が妊娠前の状態に戻るまでには6~8週間を要するといわれている。新生児は昼夜を問わず2~3時間おきに授乳や排泄の処理が必要となる。また上の子の養育が必要な場合もある。これを女性だけが担うことは心身ともに大きな負担だ。この負担を軽減するためには男性がまとまった期間の育児休業を取得し、夫婦が協同して育児に取り組むことが重要だ。厚生労働省の「令和3年度雇用均等基本調査」によると、育児休業を取得した男性のうち半数以上は取得日数が2週間未満であり、その中でも取得日数が5日未満だった割合が約半数となった。男性の育児休業取得を推進するには取得率は重要な指標だ。しかし、国や企業はこれまでの取り組みに執心せず、次なるステージとして、働きやすい職場環境の実現を目指し、男性がまとまった期間の育児休業を取得できる環境整備を進めていくべきではなかろうか。
 男性が育児休業を取得するには、本人の意志だけでなく、職場における周囲の理解も必要となる。管理職の一部には、男性は仕事、女性は家庭といった固定的性別役割分担の意識があると言われている。また、職場に育児休業取得者がいると業務上の負担が増えるのではないかと抵抗を感じる労働者も少なくない。前者は日本古来の文化に起因し、後者は業務の属人化や長時間労働といった働き方に起因する。このような意識によって生み出される職場の雰囲気が男性の育児休業取得を妨げ、取得した場合も短期間に留まっている要因となっている。これを解消するには意識と業務の両輪での変革が必要となる。企業が男性の育児休業を取得しやすい環境を整えることで、女性は安心して出産、育児に臨むことができ、男女ともに働きやすい職場環境の構築につながる。そのためには経営者はトップダウンによって、徹底した意識改革と業務改革に取り組むというメッセージを従業員に届け続けることが重要だ。もし経営者が風土の変革に躊躇しているのであれば、労働組合が経営者へ強く提言し、経営者を動かすことが必要だ。これは働きやすい職場環境の実現を目指している労働組合に課せられた責務だ。
 男性の育児休業取得はダイバーシティ経営の第一歩だ。男性の育児休業取得は国が大きく旗を振っており、世論の後押しもある。男性の育児休業取得を根付かせることは、その企業が男性にも女性にも優しく、人を大切にする企業であるというメッセージにつながる。現在の社会は情報に溢れており、労働者や学生は情報に敏感になっている。時流から遅れをとっている企業は労働者や学生から選ばれなくなり、やがて淘汰される。大切なことは、労働者が安心して働き続けられる職場環境を創り上げていくために、経営者も労働組合も本気で力を注ぐことだ。


日経電子版 2023年9月14日

野村証券、育休1カ月以上で奨励金 男性の取得推進
 野村証券は10月から、男女問わず1カ月以上の育児休業を取得した社員に対し、年間の基本給の1割相当の奨励金を支給する制度を始める。単純計算では1カ月間、通常通り出勤するよりも高い収入を得られることになる。補助制度を設けることで、特に男性の育休取得を促す。(中略) 野村の現在の男性社員の育休取得率は10%程度にとどまる。各社員が抱える業務量が多く、職場内で育休を取得できる雰囲気が薄いことが背景にあるとみられる。奨励金の支給と環境整備の両方を同時に進めることで、男性育休の取得率を早期に引き上げ、最終的に100%の達成を目指す。

サービス連合情報総研

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