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航空券やホテルの料金で導入されてきた変動料金制、「ダイナミックプライシング」が他の分野に広がりつつあるという。そもそも1970年代に米国の航空会社が導入して広がったチケット販売の仕組みで、繁忙期は高く、閑散期を安く価格を設定し、残席が多ければ安くしてなるべく満席にし、収益を高める販売戦略である。その後、スポーツやコンサートのチケットにも広がった。
日本でもプロスポーツやホテルで導入されているが、「同じサービスを受けるなら価格は一律」と考える意識が国内においては総じて強く、なかなか馴染みにくい。需給に応じて大幅に価格を上げると、消費者の不信を招いてしまう。実際、繁忙期の値段の上昇が他のホテルチェーンと比べると大きかったアパホテルズ&リゾーツは、昨年日経ビジネスが実施したホテル満足度調査において対象ホテルのなかで最下位となったのは、そのことが主要要因とされている。同社では、稼働率に単価を掛け合わせた「指標」をベースにした価格設定を行っているという。今では、正規料金の1.8倍を基準に上限を設定したうえで、下限ルールは設けていない。その結果として、稼働率はほぼ100%に達しているそうだ。稼働率が高い日は高く売り、低いには安く売っている。
先述の「指標」のような社内ルールを活用する企業もあれば、ダイナミックプライシングを導入している企業では、人工知能を使ったビッグデータ分析に基づいて価格を変動させるシステムを活用しているケースが多い。グローバル化が進み、情報分析技術が向上しているなか、企業が活用できるデータの種類やボリュームは増え続けている。そのため、膨大なデータを加味した価格設定は、人による作業や判断だけでは難しくなってきた。
一方、多くの日本企業におけるプライシングでは、担当者の勘や経験・ノウハウへの依存が強く、ナレッジが属人化する傾向があった。これまでは、そうした暗黙知を継承しているかのように対応していれば済んでいたものの、もはやそういう時代ではない。今や、戦略性を置き去りにして、感覚で真の適正価格を設定することなど無謀といえる。そこで、AIに加え、RPAと呼ばれるロボットによる業務自動化の取り組みで価格設定に活用する様々なデータを取得・整理したうえで、アウトプットする手法が登場してきた。産業内で言えば、一部の旅行会社においてパッケージツアーの企画部門で活用がはじまっている。
しかしながら、デジタル技術を価格設定に活用することへの異議は全くないが、お客様との接客の場面において矢面に登場させようと検討する企業が現れているのには違和感がある。具体的には、無人店舗で電子端末や「ペッパーくん」のような人型ロボットに対応させたり、ネット上でチャットポットに顧客とのやり取りをお任せしたりということである。単純なQ&Aで完結する案内業務ならまだしも、相談に対応できるに足る十分な技術は当座ない。今の技術では、ないものを「ない」と認識することや、データを超越した「原因と結果」への洞察には不向きで、提案力をもって顧客に対応するステージはまだまだ人間の役割だ。旅行業において、インターネット専業会社や異業態からの参入が盛んだが、消費者が既に自身で予約内容を決定している手配に限定した発注を除けば、まだまだ「相談」をベースとした購入が行われており、OTAでもコンシェルジュ機能を備える企業は多い。「ダイナミックプライシング」などデジタル技術を「川上」で活用し、移管した業務を担っていた人財を「川下」の接客の場に活用することは、人手不足で優秀な人財を確保することが困難な昨今においては有益であるとともに、顧客とのさらなる「一体関係」を育める機会である。エイチ・アイ・エスが都内に出店する「欧州専門店」に子会社のヨーロッパ担当の商品企画者を据えることで、当初予想していた以上に大きな売り上げを残した実績からも、そうした人財の有効活用策は意義があると捉える。
TOPIC:A
USJ入場料、繁簡で差
2018.9.29(土)日本経済新聞より引用
需要に応じて入場料などを変える「変動料金」の導入や実験が相次ぎ始まった。ユー・エス・ジェイは来年1月10日から、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのチケットを時期によって変える。日本交通グループなどタクシー大手も迎車料金を変える実証実験を始める。変動料金はホテルなどで先行するが、幅広く定着するか試されそうだ。
TOPIC:B
時価チケット、納得できる?
2018.10.26(金)日経MJより引用
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