個性を生かしたブランディング

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 店舗のあり方についてのニュース記事が散見される。商品やサービスをECで購入することが主流となった昨今、従来定義されていた店舗のことは「リアル店舗」と表現されることが多い。金融や小売業が「リアル店舗」を「復活」させるべく様々な取り組みを進める一方、旅行会社は総じて無策に見える。何かを始めたといっても、オープンイノベーションをアピールしたいがためのようにしか捉えられない、店頭でのARによるバーチャル旅行体験が関の山だ。もしや、他に何かしているのかもしれないが、「世の中に望まれていない取り組み」と判断され、報道や情報拡散がなされていないのだろうか……。とにかく、マーケット縮小を口実にした店舗数減という、極めてネガティブな打ち手しか見られない。果たして、旅行会社の店頭事業の寿命はあと何年なのだろう。


 消費者へ提供する商品の素材が同一のものである以上、旅行会社個社間で商品の差別化はそうそう図ることはできない。マーケットが縮小していると産業内各社が捉え、店頭事業の存在価値が中長期的にあると考えているのならば、いよいよ商品やブランドの整理・統合しかない。それができなければ、「遠心力」をフルに働かせて、企業の枠に囚われず、その個店ならではの価値を標榜するしかないのかもしれない。


 どうにもこうにも「本社の偉いさん」は、古き良き時代に、次々とやってくる消費者へ情報の非対称性を背景に「がっぽり稼いで来た」人間が少なくなく、「今の消費者のことを深く知ろう」とか「価値提供とは何ぞやといったことを学ぼう」といった発想自体がそもそも不足していがちだ。自身の成功体験に基づき、新規的な要素を反映した施策が疎かななかで事業推進役を担っており、消費者と日々正対する現場とは得てして折り合いが悪い。そのような人の知が、いまだ陳腐化しておらず、組織として継承すべきだと判断されるものなのであれば、言語化したうえでノウハウとすべきだろう。とはいえ、そのあとはそこに「今」の情報を常にアップデートさせておけばそれでよいことだ。


 それよりも、「一律的」な教育研修による人材育成策に満足するのではなく、店頭販売員の個性や得意分野を前面に押し出すような策は取れないものか。同じブランドだからといって没個性であるよりも、自身の好きな分野や独自体験を前面に出した接客がもっとあってもよいはずだ。希望方面未定の顧客に限らず、特定の海外リゾート地について明るいのであれば、例えば近隣の温泉地を希望する顧客へ提案するのも十分「あり」だと思う。対話を通じて、「お勧め」の候補を料金や方面でセグメントしたうえで、スピーディーに3プラン提示してもらえれば相応に満足度は上昇しそうなものだが。


 就活生に旅行会社が人気だった時代は、いまや昔の話。楽しそうなイメージのある旅行を仕事にできればさらに楽しいだろうという「雰囲気」が先行していた所以だと思っている。ただ、そのせっかく楽しそうなイメージのある旅行を実際に販売するにあたって、店頭販売員に組織の駒を演じさせるような風潮が存在するのであれば、変えるべきだと思う。もちろん、ただ好きだからといってその思い入れだけで突っ走るのではなく、言語化して周囲を巻き込みながら詰めていければ、「アート思考」に基づく事業運営は悪いものではないはずだ。消費者ニーズに多様性が見られる昨今ではあるが、ニーズを一定程度理解しながらも属人的な提案を価値としてブランディングしてみるのも一考だ。対話を重ねて得意分野をお勧めすることを通じた企業価値向上は、デジタル分野や異業種を意識する前にすぐにでもできる「イノベーション」と捉えられる。それに、そのようにさせてくれる企業に対する従業員のロイヤルティも向上させるという副次的な要素も伴う。足りないところを補うよりも、さらなる伸び代を期待できるところへ視点を移したい。


TOPIC:A

新宿伊勢丹 店員、客と密に対話
2019.03.18(月)日経MJより引用

全巻の商品展開面積は実は8%減っている。空いたスペースに充てたのは、25カ所のコミュニケーションスペースだ。DJブースや売り場内のラウンジで、客がスタイリストや販売員と、おしゃれについて語り合う風景が目立った。対話を通じて客のニーズを深堀りし、店への愛着を持ってもらう狙いだ。「今はゾゾよりも百貨店のスーツの方が信頼感がある。ただ、若者が大人になっても同じだとは限らない」。三越伊勢丹の杉江俊彦社長は最近、現場にこう発破をかけているという。


TOPIC:B

自己探求に革新のタネ
2019.03.18(月)日経産業新聞より引用

企業の価値を高めるイノベーションはどうしたら生み出せるのか。その糸口として注目を集めている手法が「アート思考」だ。ビジネスパーソンが実際にアート思考を取り入れるにはどうすべきか。 IT関連スタートアップ、uniqueの代表・若宮和男さんは「独自性のある価値を生むためには、顧客のニーズだけでなく自分のやりたいことを掛け合わせて考えてみては」と提案した。なぜ私はその事業をやりたいのかーー。そんな考え方と顧客の目線を両立できれば、アート思考から世の中にインパクトをもたらす事業が生まれる日は近いかもしれない。

サービス連合情報総研

一般社団法人サービス連合情報総研のホームページです。 この組織は、旅行・宿泊・国際航空貨物で働く仲間でつくったシンクタンクです。 2018年3月本格稼働。業界で働いているからこそ、の視座で情報発信します。