ビジュアル依存からの脱皮

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 当法人では、会員組織の所属員を読者とする季刊誌を発刊している。実質的な前身団体から引き継ぎ、最新の9月20日発刊号は、第195号を数えるに至った。当法人が発行を担うようになってからは、シンクタンク組織としての調査研究活動のアウトプット手段の一つと位置付けた内容で構成している。今年度に入ってからは、ツーリズムの広報・広告領域での社会とのコミュニケーションにフォーカスを当てて研究している。具体的には、企業が発信するうえで現状不足している「社会情報」について整理し、社会・消費者・顧客とのコミュニケーションのあるべき姿をまとめている。そのため、業種を問わずにコンテンツの制作現場を訪れるとともに、媒体運営の責任者に取材を敢行し、様々なヒントや事例を踏まえたうえで当法人としての考え方をつくり上げている途上だ。


 今までの手法に固執したり、ノウハウ不足なままデジタルメディアへ中途半端に足を突っ込んだりするくらいなら、「外」からの指摘に耳を傾けてその可能性に賭けてみるのはどうだろう。地域活性化を目指す観光DMOが軒並み無様な成果に留まる状況を鑑みても、やはり「中の人」がいくら考えていてもダメだ。よそもの・ばかものなどというが、外からの目で初めて気づかされることは意外に多い。今般は、PCモニターやスマホの画面を経由するよりも遥かに美しい容姿を直接拝めた嬉しさもさることながら、様々な気づきを得られた大変有意義な打ち合わせとなった。机上での研究も重要だが、人に直接お会いして話を聞くことの大事さを改めて認識した。


 その季刊誌において次号から連載をお願いする、主にライブストリーミングのインターネットテレビで活躍されている著名人と、今夕打ち合わせた。ご本人や所属事務所の担当者は、硬派な論調が目立つ特集記事の後にほっとできるような「箸休めエッセイ」として力を注ぐと謙遜されたものの、一方でツーリズムの話となると課題感の指摘は実に的を射たもので、外部の目から冷静に捉えられたその視座には驚かされた。社会情報の伝達方法を話題としているときに大変興味深かったのは、ご本人が日常的に発信されている音声ブログ「voicy」を使ったコミュニケーションの話だった。ネット配信番組上の天真爛漫なキャラクターは抑えて、気象予報士として「お休み前の明日の天気」を毎日「声」で配信しているという。忙しい現代人は、一つのメディアに集中して情報を得ることすら億劫になってしまったようで、いわゆる「ながらメディア」が一層重宝されている。そんな、ビジュアルに頼らない声だけでの情報伝達は、「ながら族」を中心として多くの人に支持されているそうだ。情報伝達手段が、テキストから画像、そして動画が中心となりつつある昨今、今でも「ラジオ放送」が珍重されていることについて改めて考えさせられた。そこには、「ながら」で情報が得られる利便性に加えて、聴覚で感じる刺激の大きさやそこから広がる想像性が誘うフィールドの広さが存在していることに気づかされた。


 ツーリズムの世界においては、提案したい方面の素材を美しく見せて、消費者の旅へのモチベーションをいかに高めるかに主眼をおいている。ただ、それに触発されて旅へ出たとしても、現地では一度「見た」風景を確かめに旅をするに過ぎず、期待を上回るような感動が得られるとは言い切れない。昔で言うところの「絵はがきのような景色」が「インスタ通りの風景」に変わっただけで、わざわざ現地に赴いての確認作業であることには変わりない。そこで新たな販売促進手法として、人の声による語りによって、その描写された風景を見てみたいというモチベーションを高めるに至る策の有効性を検討してみたいと思う。実際の風景を見ることができない目が不自由な方々に対して、それを想起することができるかもしれないという点においても、新たな価値提供に繋がる面ではCSVの取り組みとして評価できる。コミュニケーション手段が進化し多様化するなか、「原点」に回帰するのは面白い。今回の寄稿者とは、どうしてもテキストだけでは伝わりにくいニュアンスを、音声メディアを通じて併せて発信しようとして話がまとまった。エッセイの脇にリンク先のQRコードを貼り付けて、テーマの裏話や書ききれなかったことを話していただく。


TOPIC:A
人の声が持つ可能性とは? 
東芝の技術を使ったアプリ「コエステーション」がおもしろい
2019.10.08(火)Lifehackerより引用

好きなタレントはもちろん、恋人や獣人、家族の「声」を聞きたいと思うのは、その人自体に親近感を抱き、好ましく思っているから。だから、その人のアイデンティティの一部である「声」が聞けるとうれしく感じる…。そういう意味で、声にはこれまで気がつかれていなかった価値があると言えます。ベビーシッターが子どもの世話をしていたとしても、絵本の読み聞かせは両親が保存した声でできる。離れてクラス家族の声を聞くことで、身近に感じることができる。そんな未来がもう来ているのです。そして、もしも声を失うときが来ても、「コエ」を作っておけば、身近な人と「自分の声」でコミュニケーションすることを諦めなくてすみます。「自分の音声をデジタル化して保存する」ことが、当たり前になる日は近いのかもしれません。

サービス連合情報総研

一般社団法人サービス連合情報総研のホームページです。 この組織は、旅行・宿泊・国際航空貨物で働く仲間でつくったシンクタンクです。 2018年3月本格稼働。業界で働いているからこそ、の視座で情報発信します。